そんなつもりじゃなかった

人生の難易度が高すぎる

初恋芸人を読んだ

中沢健著作の初恋芸人という小説を読んだ。これがとても僕好みの童貞感爆発しているような本で、興奮が覚めてしまう前に感想を書いておくことにする。

初恋芸人 (ガガガ文庫)

初恋芸人 (ガガガ文庫)

 

 

主人公で売れない芸人をやっている佐藤は、先輩の同じくお笑い芸人である山形ツチノコ主催のライブに出演するのだが、彼らのライブ後に自身らのネタを面白いと言ってくれたヒロインの市川理沙と打ち上げを共にすることになる。

そこから佐藤と市川は急接近して、自他共に認める友達になるが、主人公の気持ちは時間と共に変容していく。最初は人生初めての女友達に浮かれていた佐藤。しかし、時間が経つに連れて自分が市川のことを異性として好きになってしまう。実は佐藤は最初から市川のことを友達と意識するよりかは「女性」として意識していたのだが、無意識にそう思わないようにしていた。ここで彼らの気持ちに差異があったのだ。

市川にとって、主人公の佐藤はどこまで行っても大切な「友達」のひとりでしかなかったのだ。そして、あろうことか彼女は主人公の恩人で仲間である山形ツチノコと恋愛関係になってしまうのだ。

恋人になりたい佐藤と、友達のままでいたい市川。市川は友情関係を壊したくないために佐藤に嘘をつき続ける。それも長くは続かずに、物語は終盤を迎える……。

 

読んでいて、心が痛くなった。お笑い芸人の著者が書いているせいか業界の描写にも妙にリアリティがあって、その分没頭できたのだが、あまりにもモテない男性の純粋な心が繊密に描写されているせいでダメージがとてつもなく大きい。精神衛生上よくない。

終章で書かれる市川の独白には、真実があった。それは小説というフィクションだけには留まらず現実の恋愛にも綺麗に当てはまると思う。

女性にとって、異性として見ることのできない男は、どこまで行っても恋愛対象にはならないということだ。女性は弱い男にはとてもつもなく厳しい。権力があり、強いオスを好む。単純なことだが、普段生きていると忘れてしまいがちなことだ。

しかし自然界では弱い者の遺伝子は淘汰されてしまうのだから、強い者を求めるのは本来自然であって、理にかなっているのだ。衣服を着て、人工的な世界に生きる僕たち人間も、恋愛という自然的な現象は野生の考えに基づいて行っているのだ。

僕は読んでいて、自身の経験も照らし合わせながら、中高生だった頃、教室にあったいやーなスクールカーストのあの雰囲気を思い返していた。

主張のできない弱く惨めな男は隅に追いやられて、権力のある男達が女子を独占して、楽しそうに過ごす。それは社会も学校も変わらないな。僕も高校のころは自分が女性と楽しく過ごしているところなんて、想像も付かなかった。現実感がないのだ。ましてや髪やあの柔らかそうな唇に触れることなんて、それこそフィクションの世界だと思っていた。

僕はこの人生において今までで、奇跡的に何人かは恋人ができたのだが、こんな自分も異性から男として見られることがあるんだなーと不思議で仕方なかった。そしてそのとき思ったのだが、女性から認められないと「本質的な意味での男としての自信」を身につけることは限りなく難しいことに気づいた。

そのくらい異性といると自信がつくし、幸福感に満ちあふれるのだ。何かに失敗しても自分には認めてくれる味方がいるという感覚。これは同性との友情関係や家族内の親愛から得ることはできないだろう。

 

話が大きく脱線してしまった感はあるが、それくらい引き込まれてしまいましたってことで。なんにせよ良い小説でした。おすすめです。